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第30話 乾杯

Author: 青砥尭杜
last update Last Updated: 2025-02-22 23:00:43

 アルテッツァとセリカの二人と初めての会話を交わすカイトとの間に流れる空気が、打ち解けたものとなったタイミングを見計らうようにトワゾンドール魔道士団の第十席次を示すマントを纏うノンノと、同じく第十一席次を示すマントを纏うピリカが三人へと近寄った。

「カイト卿への挨拶は済んだ?」

 ノンノはフランクに親しさを含んだ調子でアルテッツァへ問い掛けた。

「ああ、つつがなく済んだよ」

 アルテッツァが輝く笑顔を向けて答えると、向けられた笑顔に反応してノンノは返した。

「相も変わらず、女を惹き付ける笑顔なんだから。もったいないよね、まったくもう」

 小柄なノンノが長身のアルテッツァを見上げるようにして言うと、アルテッツァは対応に慣れた様子で微苦笑を浮かべてみせた。

「もったいない?」

 カイトが小首を傾げながらノンノの言葉に疑問を向けると、ノンノは平然とその理由を言ってのけた。

「これだけの美形で性格も良くて、おまけに家柄も能力に見合った地位も揃ってるってのに、女には興味がないんだよ。アルテッツァもセリカもね」

 ノンノがサラッと口にした意外な理由に対して思わず「え?」と声を漏らしたカイトに、アルテッツァは微笑を浮かべながら説明を加えた。

「私のパートナーは、公私ともにセリカなんです」

「そうなんですか。信頼できるパートナーといつも一緒にいられるって素敵ですね」

 カイトは穏やかな笑みを浮かべるアルテッツァにつられるように、微笑みを返しながら感想を口にした。

「ありがとうございます。私の時間はセリカがいてくれるおかげで充足しています」

 アルテッツァが輝く笑顔をみせながら答える。

 ノンノが展開を次へ進める合図代わりにピョンと跳ねて、カイトの前に着地する。

「カイト卿は、女性はお好き?」

「うん……好きだよ」

「お、素直でいいね。ピリカ、チャンスだよ!」

 ニカッと笑ったノンノが振り返ってピリカに視線を送る。

 ピリカが「ノンノ!」とたしなめる声を上げるのに合わせて、カイトが「でもね」とノンノに声をかけた。

 声に反応したノンノが振り返ると、カイトは微苦笑を浮かべながら自分の性格を打ち明けた。

「俺は女性に対して積極的なタイプじゃないんだ」

「そうなの? もったいないなあ。選り取り見取りの立場なのに」

 会話の中心にいるノンノの耳に「ノンノ卿……!」というレビンの落ち着いているが良く通る声が届く。

「場に似つかわしくない発言は、その程度に」

 トワゾンドール魔道士団の第八席次を示すマントを纏うレビンが、会話の空気を入れ換えるようにカイトたち五人の輪に加わった。

 レビンのすぐ後ろには第九席次を示すマントを纏うステラの姿もあった。

 ノンノはレビンの注意に「はーい」と素直に応じた。

「レビン・リスケーと申します」

 レビンが右手を差し出すのに応じて「カイトです。よろしくお願いします」とカイトが握手を交わす。

「ステラ・リベスタと申します」

 ステラがレビンに続いて右手を差し出すのに応じて「カイトです。よろしくお願いします」とカイトは笑顔で握手を交わした。

 レビンとステラが会話の輪に加わったことで、ミズガルズ王国の筆頭魔道士団であるトワゾンドール魔道士団に属する七人の魔道士が円陣を組むような形となった。

「七人が揃ったんだし、乾杯しようよ! 来れなかった四人の分も含めてさ」

 ノンノが軽い口調で提案すると「それはいいね」とアルテッツァが輝く笑みを浮かべて同意した。

 セリカとステラが近くに待機していたウエイターへ合図を送ると、素早く対応した三人のウエイターが新しいシャンパングラスを七人へ給仕した。

「乾杯の音頭は、首席魔道士であるカイト卿にお願いしたく思います」

 アルテッツァは新しいグラスを手に取るとカイトへ笑顔を向けた。

「俺が、ですか?」

 カイトが突然の指名に躊躇すると「そりゃそうでしょ。他に誰がやるのよ」とノンノが笑った。

「お願いします」

 レビンがやわらかい笑みをカイトに向ける。

「じゃあ……」カイトは意を決して半歩前に出た。「……俺は、この世界に来たばかりです。それでも、自分に課せられた役割は認識しているつもりです。力を持った者の責務を果たすことを、ここにあらためて誓います。では……ミズガルズ王国を守護する、我らトワゾンドール魔道士団の結束に……」カイトがグラスを掲げる。「乾杯!」

 六人が一斉に「乾杯!」と唱和した。

 その光景をケンゾーやマジェスタが満足そうに眺めていた。

 セルシオが拍手を送る。すると、つられるように周りの参列者も拍手と喝采を送った。

 カイトは円陣の中で喝采を感じながらシャンパンを飲み干した。

 その味は自らの高揚感を静めるようにも、逆に焚き付けるようにも感じられた。

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